コラム一覧/親が認知症・要介護になったとき、家じまいはどう進める?
高齢の親と向き合い、実家の書類を確認する子世代の様子

2026-06-11 更新

親が認知症・要介護になったとき、家じまいはどう進める?

親が認知症や要介護状態になると実家の売却・解体手続きが困難になります。成年後見制度・任意後見・家族信託の違いと、介護施設入所後の空き家管理・処分の進め方を解説します。

LINE公式アカウント

LINEで家じまいの相談をはじめる

友だち追加後、チャットで相談できます。

LINEで友だち追加

1. 「実家を売りたいのに手続きができない」—— 認知症・介護が招く空き家問題

総務省「住宅・土地統計調査(2023年)」によると、全国の空き家数は900万戸、空き家率は13.8%に達しています。その背景の一つが、親が認知症や要介護状態になり、不動産の売却・解体・賃貸などの手続きを進められないまま実家が放置されるケースの増加です。 不動産の売買や解体工事の発注には、所有者本人の法的判断能力(意思能力)が必要です。認知症が進行して意思能力を失った状態では、たとえ家族であっても本人の代わりに勝手に不動産を売却することはできません。「親が施設に入ったから実家を売ろうと思ったら、もう手続きができない状態だった」という事例は珍しくなく、早めの対策が重要です。

2. 成年後見制度の種類と特徴(法定後見 vs 任意後見)

項目法定後見任意後見
開始のタイミング認知症等で判断能力が低下した後判断能力があるうちに契約
申立権者本人・配偶者・4親等内の親族など本人のみ(契約当事者)
後見人の選任家庭裁判所が選任(第三者専門家も多い)本人が事前に指定した人物
不動産売却の可否居住用不動産は家庭裁判所の許可が必要任意後見監督人選任後に可能(居住用は裁判所許可)
費用目安(月額)後見人報酬:2万〜6万円程度(財産規模による)後見人報酬:当事者間で決定(目安1万〜3万円程度)
手続きの自由度裁判所・後見監督人の監督下で制限あり契約内容の範囲内で対応可能(監督人の監督あり)
家族信託との併用原則として信託設定は困難判断能力があるうちに信託設定→任意後見と組み合わせ可

※ 制度の詳細や手続きは家庭裁判所・専門家(弁護士・司法書士・社会福祉士)にご確認ください。費用は財産規模・後見人の属性等によって異なります。 ※ 任意後見制度は「任意後見契約に関する法律」(平成11年法律第150号)によって規定されています。民法が根拠となる法定後見とは別の法律に基づく制度です。内容の詳細は専門家(弁護士・司法書士・社会福祉士等)にご確認ください。

出典:民法、任意後見契約に関する法律、信託法の制度趣旨を参考に編集部作成

3. 法定後見制度——認知症が進行してしまった後の対応策

親がすでに認知症を発症し、判断能力が低下している場合に使えるのが「法定後見制度」です。家庭裁判所に申立てを行い、裁判所が後見人(または保佐人・補助人)を選任します。後見人は本人の財産管理や法律行為の代理権を持ちますが、居住用不動産の売却には別途、家庭裁判所の許可申立が必要です。 手続きには申立てから選任まで数か月を要する場合があり、専門家報酬も継続して発生します。また一度後見が開始すると、本人が回復しない限り制度が続くため、家族の関与が限定されるケースもあります。認知症発症後に不動産売却を急ぐ場合でも、まず弁護士・司法書士に相談し、適切な手順を確認することが重要です。

4. 任意後見契約——元気なうちに準備できる最善策

「任意後見制度」は、本人に判断能力があるうちに、将来の後見人となる人物と公正証書で契約を結ぶものです。親が元気なうちに「自分が判断能力を失ったら、この人に財産管理・不動産処分を任せる」と決めておけるため、法定後見よりも柔軟な設計が可能です。 任意後見が発動するのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後です。それまでは通常の判断能力で生活を続けられ、契約内容の範囲で後見人が動けます。実家の売却・解体・賃貸などを契約に盛り込んでおけば、発動後にスムーズに手続きを進められます。「親が80代になったら任意後見の話し合いをする」というタイムラインを家族で共有しておくことが大切です。

5. 家族信託——柔軟性が高い財産管理の選択肢

「家族信託」は、信託法上の仕組みを活用して、親(委託者)が信頼できる家族(受託者)に不動産や金融資産の管理・処分を任せる方法です。任意後見と異なり、開始時点から家庭裁判所の監督を受ける制度ではなく、契約内容を比較的柔軟に設計できる点が特徴です。 例えば、「親が施設に入所したら受託者(子)が実家を売却できる」「売却代金を親の介護費用に充てる」といった条件を信託契約に盛り込めます。ただし家族信託も、親の判断能力がある段階での契約締結が必要です。認知症発症後には新たに信託を設定できないため、早期の検討が不可欠です。また信託設定には司法書士・弁護士への相談と公正証書作成が必要で、費用は財産規模に応じて数十万円程度かかるケースもあります。

6. 介護施設入所後の空き家——管理と処分の方針を決める

親が介護施設に入所すると、実家は誰も住まない「事実上の空き家」となります。固定資産税の支払いや建物の維持管理コストは継続して発生する一方、空き家の放置リスク(老朽化・不法投棄・近隣トラブル・特定空家指定)も高まります。 処分方針を決める際の主な選択肢は、①売却(仲介または買取)、②解体して更地にして売却、③賃貸(空き家バンク登録含む)、④当面管理のうえ将来的に対応、の4つです。どの選択肢が最適かは、不動産の状態・立地・市場性・相続人の意向によって異なります。成年後見人や任意後見人が選任されている場合は、後見人を通じて手続きを進めることになります。「とりあえず放置」は維持費と将来的なリスクを積み上げるだけなので、入所後1〜2年を目安に方針を固めることが望ましいです。

7. 早めに家族で話し合うべき4つのポイント

認知症・要介護への備えとして、親が元気なうちに家族で確認しておきたい事項をまとめます。 ① 実家の処分について本人の意向を確認する 親本人が「売りたい」「残したい」「子どもに任せる」のどれを希望しているかを、元気なうちに明確にしておきます。本人の意向がないまま判断能力が低下すると、家族間での方針対立が起きやすくなります。 ② 任意後見契約または家族信託の検討を始める 専門家(弁護士・司法書士)への相談は、親が70代・元気なうちに始めるのが理想です。契約書作成には時間と費用がかかるため、「そのうちやろう」と後回しにするリスクを認識しましょう。 ③ 相続人全員の合意形成を進める 実家の処分は相続人(兄弟姉妹など)全員が関わる問題です。後見制度や家族信託の活用方針についても、事前に全員で話し合い、意見の相違を早期に解消しておくことが重要です。 ④ 実家の権利関係・ローン残債・登記情報を確認する 実家に住宅ローン残債がある場合や、登記名義が古いままの場合は、追加の手続きが必要です。2024年4月から相続登記が義務化されているため、相続発生後3年以内の登記も忘れずに確認してください。

8. よくある質問

Q親の認知症がまだ軽度の段階でも、成年後見を申立てできますか?

A認知症の程度により「後見」「保佐」「補助」の3類型があります。軽度の場合は「補佐」「補助」の対象になることもあります。現時点での判断能力の状態を医師の診断書で確認し、家庭裁判所や専門家に相談することをお勧めします。

Q家族信託を設定しておけば、認知症になっても実家を売れますか?

A信託契約の内容に不動産の売却権限が含まれていれば、受託者(子など)が親の代わりに売却手続きを進めることができます。ただし信託設定は親の判断能力があるうちに行う必要があり、認知症発症後の新規設定はできません。

Q後見人が選任されれば、すぐに実家を売れますか?

A居住用不動産の売却には、後見人選任後さらに家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」の申立てが必要です。許可が下りるまでに数週間〜数か月かかる場合があります。

Q介護施設入所中の親の実家の固定資産税は誰が払うのですか?

A固定資産税は不動産所有者(親本人)に課税されます。後見人が選任されている場合は後見人が親の財産から支払います。後見人がいない場合は、法律的には親本人が支払義務を持ちますが、家族が立替払いするケースが実務上多くみられます。

Q親が施設に入所したら、「特定空家」に指定されるリスクはありますか?

A入所直後は通常、即座に特定空家指定にはなりません。ただし、長期放置で建物が老朽化・崩壊危険・衛生悪化などの状態になると、市区町村から「特定空家等」に指定される可能性があります。入所後は定期的な建物点検・管理を継続することが重要です。

Q兄弟が反対している場合、後見人が勝手に実家を売却できますか?

A居住用不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要であり、裁判所が本人の利益になるかを審査します。相続人全員の合意がなくても手続きは進められますが、家族間の紛争を避けるためにも、専門家の仲介のもと話し合いを重ねることが望ましいです。

9. あわせて読みたい関連記事

10. まとめ——早めの話し合いと備えが家族を守る

親が認知症・要介護状態になってから実家の家じまいを進めようとすると、法的な制限により手続きが大幅に複雑化します。重要なポイントを整理します。 ・意思能力のある段階での「任意後見契約」または「家族信託」の設定が、最もスムーズな対応策です。 ・認知症発症後に使える「法定後見制度」は有効ですが、費用・時間・手続きの制約があります。居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が別途必要です。 ・介護施設入所後の空き家は、固定資産税・管理費用・老朽化リスクが継続します。入所後1〜2年を目安に処分方針を固めましょう。 ・相続人全員の合意形成と、登記名義・権利関係の確認を早めに行うことが、将来のトラブル防止につながります。 「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちが、準備の最大のチャンスです。弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門家へ相談しながら、家族全員で実家の将来を考える機会を作ってみてください。

家じまいのお役立ちサービス

LINE公式アカウント

次に進むなら、LINEで家じまい相談

迷ったままにせず、まずは友だち追加で相談の一歩を。

LINEで友だち追加

参考資料

  1. 民法 / e-Gov法令検索

    原典URL: https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

    根拠: 民法第7条〜第21条は後見・保佐・補助の三類型(法定後見)を規定しており、判断能力が不十分な者の法律行為能力を制限・代行する仕組みを定めている、後見開始の審判を受けた者(成年被後見人)は法律上重要な財産行為を単独で行えず、後見人が代理して不動産の売却等を行う

  2. 令和5年住宅・土地統計調査 / 総務省統計局 / 2024-04-30

    原典URL: https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html

    根拠: 2023年の全国空き家数は900万戸、空き家率は13.8%、相続や高齢者施設入所を契機とした空き家の増加傾向

監修・著者情報

空き家先生 川口哲平

空き家先生 川口哲平(監修)

全国空き家対策コンソーシアム 代表理事 / 株式会社クラッソーネ 代表取締役CEO

空き家先生のX

経歴

空き家先生・全国空き家対策コンソーシアム代表理事・クラッソーネCEO。名古屋出身、京都大学卒業後、セキスイハイムを経てクラッソーネを設立。その後、全国空き家対策コンソーシアムを設立。

著者:クラッソーネ編集部