1. 相続土地国庫帰属制度と解体、どちらを選ぶべきか
親から相続した土地や空き家を手放したい。そう思ったとき、2023年4月にスタートした「相続土地国庫帰属制度」と、建物を解体して更地にしたうえで売却する「解体→売却」の二つの選択肢を比べる方が増えています。
国庫帰属制度は法務局に申請することで国に土地を引き取ってもらえる仕組みです。「タダで手放せるのでは」と期待される方も多いのですが、利用できる条件が厳しく、負担金も発生します。一方、解体には費用がかかりますが、土地を売却や買取に回す選択肢が広がります。
2023年時点で全国の空き家は約900万戸・空き家率13.8%(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」)に達しており、相続した不動産の扱いに悩む方は後を絶ちません。また2024年4月からは相続登記の義務化が始まり、相続を知った日から3年以内の申請が義務付けられています。こうした制度変更を踏まえ、両方の選択肢をしっかり比較してみましょう。
2. 相続土地国庫帰属制度と解体→売却の比較
| 比較項目 | 国庫帰属制度 | 解体→売却・買取 |
|---|---|---|
| 手続き先 | 法務局(法務大臣への申請) | 解体業者・不動産業者・買取業者 |
| 主な費用 | 審査手数料1万4,000円+負担金(宅地は20万円〜) | 解体費用(木造で坪3〜5万円程度が目安)+仲介手数料など |
| 建物の扱い | 建物がある土地は原則対象外(更地が条件) | 建物を解体してから更地で売却、または現状渡し買取 |
| 対象外の主なケース | 担保・抵当権付き、境界未確定、汚染地、傾斜地、共有(一部不可)など | 解体後は更地として売却・買取可。条件は物件・立地による |
| 手放したあとの収入 | なし(国へ無償で引き渡す) | 売却代金または買取代金が得られる場合がある |
| 固定資産税への影響 | 帰属完了後は負担ゼロ | 解体後は住宅用地特例が外れ、売却前は増税リスクがある |
| 手続き期間の目安 | 申請から帰属決定まで数か月〜1年以上かかることがある | 解体工事は数週間〜1か月程度。売却期間は立地次第 |
費用・期間は一般的な目安です。個別の物件状況・自治体・申請時期によって異なります。
出典:e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」および地方税法を参照し、比較軸は編集部作成
3. 相続土地国庫帰属制度の仕組みと要件
相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈によって取得した土地を、一定の要件を満たした場合に国(法務大臣)が引き取る制度で、2023年4月27日に施行されました。
申請できる人
土地を相続(または遺贈)によって取得した相続人が申請できます。共有地の場合、共有者全員が共同で申請することが必要です。相続以外の売買・贈与で取得した土地は対象外です。
申請できない土地(却下・不承認事由)
以下に該当する土地は申請しても帰属できません。
- 建物が存在する土地(原則として建物を取り壊して更地にすることが前提)
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 通路など他者が使用している土地
- 土壌汚染が確認された土地
- 境界が不明確な土地
- 崖地など通常の管理に過分の費用・労力を要する土地
- 一定量以上の有害物質が地中に埋設されている土地
費用:審査手数料と負担金
申請時には「審査手数料」として土地1筆あたり1万4,000円が必要です。帰属が承認された場合はさらに「負担金」が発生します。負担金は土地の種類や面積によって異なり、宅地(市街地)では20万円が最低ラインで、面積が大きければ加算されます。農地や山林は種別によって別の算定方式があります。
申請手続きの流れ
1. 法務局窓口で相談(予約が必要な場合あり)
2. 必要書類を整えて申請(土地の所在を管轄する法務局へ)
3. 審査(書類審査と現地調査)
4. 承認通知が届く
5. 負担金を納付
6. 国庫帰属が完了
却下または不承認の場合は審査手数料は返還されません。不承認になっても負担金は不要です。
4. 解体→更地化のコストと売却・買取の流れ
国庫帰属制度が利用できない場合や、土地を売却することで手元資金を得たい場合は、建物の解体→更地売却または現状渡し買取を検討することになります。
解体費用の目安
木造住宅の解体費用は1坪(3.3㎡)あたり3〜5万円程度が目安として挙げられることがありますが、建物の構造・延床面積・立地・廃材処分費・アスベスト含有の有無などによって大きく変動します。複数の業者から見積もりを取ることで費用感が把握できます。
固定資産税の注意点
建物を解体して更地にすると、地方税法上の住宅用地特例が外れます。小規模住宅用地(200㎡以下)では課税標準が評価額の1/6に軽減されていますが、更地になると1/1(全額)になるため、固定資産税が大幅に上昇する可能性があります。解体後に早期売却が見込めない場合は、売却完了までの税負担増も計算に入れておく必要があります。
現状渡し買取(解体なし)という選択肢
建物が老朽化していても、解体せずに現状のまま不動産買取業者へ売却する「現状渡し買取」という方法もあります。自分で解体費用を負担しなくてよいですが、その分、買取価格が低く設定されることが多い傾向があります。費用負担を抑えながら早期決着を目指したい場合に選択肢の一つとなります。
解体補助金の確認
自治体によっては、老朽化した危険空き家や特定空き家に指定された建物の解体費用を一部助成する制度があります。補助要件(老朽度・建築年・所在エリアなど)や申請時期は自治体ごとに異なるため、事前に市区町村の窓口に確認することをおすすめします。
5. 国庫帰属制度が向いているケース・解体が向いているケース
両制度のどちらが自分の状況に合うかを判断するために、以下のポイントを確認してください。
国庫帰属制度が選択肢になりやすいケース
- 土地の需要が極めて低く、売却が見込めないエリアにある
- 建物がなく(または解体済み)、境界も確定している更地である
- 担保・抵当権などの権利関係がなく、土壌汚染もない
- 宅地以外の農地・山林・原野で、固定資産税評価額が低く負担金が20万円以内に収まる場合
- 相続人が売却益より「手放すこと」を優先したい
解体→売却・買取が向いているケース
- 土地に住宅が建っており、国庫帰属の対象外になる(建物除去後に再度判断するという手順になる)
- 土地の立地が良く、更地にすれば売却・買取の見込みがある
- 解体補助金を活用することで自己負担を一定程度抑えられる
- 固定資産税の増額よりも売却収入の方が大きいと見込める
- 手続きをシンプルに進め、早期に決着させたい
どちらも難しいと感じたら
国庫帰属制度の要件を満たさない、かつ解体費用が重いという場合は、現状渡し買取や空き家バンクへの登録、相続放棄(ただし相続財産全体の放棄になるため注意が必要)なども含めて複数の選択肢を検討することになります。相続放棄は相続開始を知った日から原則3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、土地だけを選んで放棄することはできない点に注意が必要です。
6. よくある質問
Q相続土地国庫帰属制度は「タダで土地を手放せる」制度ですか?
A無償で引き渡すという意味では「タダ」ですが、申請時に審査手数料(1筆1万4,000円)がかかり、承認後は別途「負担金」の納付が必要です。宅地の場合は最低でも20万円の負担金が発生します。土地の種別・面積によっては負担金が数十万円になることもあるため、事前に法務局で確認することをおすすめします。
Q建物が残っている土地でも国庫帰属制度を使えますか?
A原則として建物がある土地は対象外です。建物を解体して更地にしたうえで改めて申請を検討することになりますが、解体費用も発生するため、解体後に売却・買取が見込めるかどうかを先に試算することが重要です。
Q国庫帰属の申請が不承認になった場合、費用は返ってきますか?
A審査手数料(1万4,000円)は、却下・不承認の場合でも返還されません。不承認の場合は負担金は発生しません。事前に法務局の相談窓口を活用し、要件を確認してから申請することをおすすめします。
Q建物を解体して更地にすると固定資産税はどうなりますか?
A地方税法上の住宅用地特例が適用されなくなるため、課税標準が上がり、固定資産税が更地前と比べて大幅に増える可能性があります。小規模住宅用地(200㎡以下)の場合、税額が最大で6倍近くになることがあります。解体後に早期売却を目指すか、補助金を活用するかを合わせて検討しましょう。
Q共有の土地でも国庫帰属制度は使えますか?
A共有地の場合は、共有者全員が共同で申請する必要があります。一部の共有者だけで申請することはできません。相続人が複数いて意思統一が難しい場合は、この点がネックになることがあります。
Q相続放棄すれば国庫帰属制度を使わなくてよいですか?
A相続放棄をすれば相続しなかったことになりますが、土地だけを選んで放棄することはできず、プラスの財産も含めたすべての相続財産を放棄することになります。また相続放棄の申述は相続開始を知った日から原則3か月以内に家庭裁判所へ行う必要があります。相続財産の全体を把握したうえで判断することが重要です。
Q国庫帰属の手続きにはどのくらい時間がかかりますか?
A申請から帰属決定まで、数か月〜1年以上かかることがあります。書類審査に加えて現地調査が入るため、期間に余裕をもって申請することを想定しておくと安心です。
7. まとめ:制度の要件と費用を確認してから判断する
相続土地国庫帰属制度は、一定の要件を満たす土地を国に引き取ってもらえる選択肢として2023年4月から利用可能になりました。ただし、建物が残っている土地は原則対象外で、負担金も発生するため「タダで手放せる」とは限りません。
一方、建物を解体して更地にする方法は費用が先行しますが、立地次第では売却・買取によって費用を回収できる可能性があります。解体後は固定資産税の住宅用地特例が外れる点を踏まえ、早期売却の見込みと合わせて試算することが重要です。
どちらの方法が合うかは、土地の状態・立地・権利関係・相続人の数・費用の負担許容額によって異なります。まずは法務局の相談窓口と解体業者・不動産業者の双方に相談し、条件と費用感を把握したうえで判断することをおすすめします。



