1親が認知症のとき、実家を売るために知っておきたいこと
親が認知症になり、施設への入所などで実家が空き家になっても、家族がそのまま代わりに売ることはできません。不動産の売買には、売る本人が内容を理解して判断できること(意思能力)が必要で、意思能力のないときにした法律行為は無効とされているためです[1]。そこで選ばれることが多いのが、家庭裁判所に申し立てて後見人を選んでもらう「成年後見制度」です。なお、判断能力の程度によっては、後見ではなく保佐・補助の対象になることもあります。この記事では、判断能力が欠けているのが通常の状態で、後見を使う場合を説明します。令和6年に終局した成年後見関係事件(4万1,620件)のうち、主な申立ての動機に「不動産の処分」があったものは1万4,990件(36.0%)でした(1件に複数の動機が挙げられることがあります)[2]。
ただし、後見人が選ばれても、本人が住んでいた家を売るには、さらに家庭裁判所の許可が必要です[3]。また、一度始まった後見は、家を売り終えても、原則としてやめられません[4]。この記事では、成年後見で実家を売るまでの流れと、期間、申立ての前に知っておきたい注意点を、裁判所の資料をもとに整理します。個別の判断は弁護士・司法書士などの専門家に、申立先や手続きは本人の住所地を管轄する家庭裁判所に確認してください。
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2成年後見で実家を売るまでの流れ
家族が代わりに売れないのは、本人の意思能力が前提だから
民法は、意思表示をしたときに意思能力がなかった場合、その法律行為は無効と定めています[1]。親の判断能力が低下している場合に、家族が親の名前で売買契約を結んでも、あとで無効になるおそれがあります。認知症と診断されたからといって、すぐに売れなくなるとは限りません。意思能力があるかどうかは、本人の状態によって違うため、医師の診断なども踏まえて、専門家に確認しましょう。親が元気なうちにできる備えは、親が認知症・要介護になったときの家じまいで解説しています。
申立てから、後見人が決まるまで
成年後見制度を使うには、家庭裁判所に申立てをします。申立先や必要書類は、家庭裁判所ごとの案内で確認してください。申立てから審判までは、おおむね1〜2か月程度で、鑑定を行う場合は、さらに鑑定の期間が必要です[4]。最高裁判所の統計では、令和6年に終局した事件のうち、2か月以内に終局したものが約72.0%、4か月以内が約93.8%でした[2]。鑑定を行う場合は、申立人が鑑定費用を納める必要があります[4]。
申立書に後見人の候補者として書いた人が、必ず選ばれるわけではありません。事案によって、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や、複数の後見人が選ばれることがあり、希望した人が選ばれなかったことを理由に不服を申し立てることはできません[4]。令和6年の統計では、後見等の開始と同時に選任された成年後見人等の「本人との関係別件数」のうち、親族は約17.1%、親族以外は約82.9%でした(複数の後見人等が選ばれた場合は、重複して集計されます)[2]。「子どもの自分が後見人になって、実家を売る」という前提で計画を立てないようにしましょう。
後見人が選ばれたあと、売るには「居住用不動産の処分の許可」が必要
成年後見人が、本人に代わって、本人が住んでいた家や敷地を売るには、家庭裁判所の許可が必要です[1]。許可を得ないで売った場合、その売却は無効になります[3]。対象になる「居住用不動産」は、今住んでいる家だけではありません。施設や病院に入所していて今は住んでいなくても、将来住む可能性がある家や、入所前に住んでいた家も含まれます[3]。
申立ては成年後見人が行い、申立先は、後見開始の審判をした家庭裁判所です。申立ての手数料は収入印紙800円分で、郵便料は裁判所によって違います[3]。

3親の判断能力の状況別:実家を売るまでの進め方の比較
| 親の状況 | 進め方の目安 | 必要なこと | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 判断能力が十分にある | 本人が売主として手続きを進める | 本人の意思確認。専門家に、意思能力があるかを相談する | 判断能力が下がってからでは、本人が売れなくなることがある |
| 判断能力が欠けているのが通常の状態で、後見が始まっていない | 専門家や家庭裁判所に、後見開始の申立てについて相談する | 申立書類、診断書など。申立てから審判まで、おおむね1〜2か月程度 | 後見人は家庭裁判所が選ぶ。始まった後見は、売却後もやめられない |
| すでに後見人がいる | 後見人が、居住用不動産の処分の許可を申し立てて売る | 売る必要性を示す資料、評価証明書、査定書、登記事項証明書など | 許可なく売ると無効になる。申立てをするのは後見人 |
| 急いで売る必要がない | 管理を続け、相続が始まったあとに売る方法もある | 空き家の管理方法の決定、固定資産税などの費用の見込み | 管理が長引くと、費用や近隣への影響が続く |
進め方の整理は編集部によるものです。公的資料が根拠になっているのは、意思能力のない法律行為は無効なこと、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要なこと、申立てから審判までの期間、後見は原則としてやめられないことです。任意後見や家族信託を結んでいる場合は、契約の内容によって進め方が変わります。個別の判断は、弁護士・司法書士などの専門家に確認してください。
出典:裁判所「居住用不動産の処分についての許可」「成年後見制度」、最高裁判所「成年後見関係事件の概況(令和6年)」、民法を基に編集部作成
4申立ての前に知っておきたい3つの注意点
売却が終わっても、後見は続く
裁判所は、後見が始まると、本人の能力が回復するか、本人が亡くなるまで続き、申立てのきっかけになった事柄が解決したあとも、家族の意思や本人の希望でやめることはできないと説明しています[4]。申立書を出したあとは、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることもできません[4]。実家の売却をきっかけに後見を利用した場合も、売却が終わったことだけを理由に、後見を終えることはできません。売却後も、後見人が本人の財産を管理する状態が続きます。
後見人の報酬は、本人の財産から支払われる
後見人や後見監督人の報酬は、家庭裁判所が、付与するかどうかと金額を決め、本人の財産から支払われます[4]。後見が長く続くほど、費用の負担も続きます。金額は事案によって違うため、申立ての前に、専門家や家庭裁判所に確認しておきましょう。
売る目的は、本人の利益になることが前提
成年後見人は、本人の意思を尊重し、本人の心身の状態と生活の状況に配慮して、事務を行わなければなりません[1]。居住用不動産の処分の許可の申立てでも、処分の必要性を示す資料を添えます[3]。施設の入所費用や、本人の生活・療養の費用をまかなうためなど、本人にとって必要な理由を整理しておきましょう。「家族が管理するのが大変だから」「兄弟で分けたいから」という家族側の事情だけでは、説明が難しくなります。
5売却を進めるときの実務
売却の準備:査定書と登記の確認
許可の申立てには、処分の必要性を示す資料として、売却の契約書の写し、処分する不動産の評価証明書、売却する場合は不動産業者が作った査定書、登記事項証明書などを添えます[3]。審理のために、追加の書類を求められることもあります[3]。売却先は、後見人が、本人の利益になる条件で選びます。査定は複数の業者に頼んで、価格の根拠を説明できるようにしておくと進めやすくなります。買取と仲介の違いは、買取と仲介の比較で解説しています。
家に残った家財の整理も、早めに考える
親が施設に入所したあとの実家には、家財が残っています。売却や引き渡しの前に、家財をどうするかを決める必要があります。本人の持ち物の整理は、後見人と相談しながら進めましょう。家財の整理の流れは、生前整理と遺品整理の違いでも整理しています。
売れそうにないときの考え方
築年数が古いなどで、すぐに売れないこともあります。その場合は、売却以外の選択肢も、後見人や専門家と一緒に考えます。売れない家の次の手は、空き家が売れないときの次の一手で解説しています。
6後見を使わない選択肢と、元気なうちの備え
相続が始まってから売る方法もある
急いで売る必要がなければ、後見を使わず、管理を続けて、相続が始まったあとに、相続人が売る方法もあります。その場合は、相続登記の義務や、相続人どうしの合意が必要です。親の家を処分するタイミングの考え方は、親の家の処分はいつ・どう進める?で整理しています。
管理を続けるなら、費用と手間を見込む
売却までの間も、固定資産税や建物の管理の費用はかかります。通う・管理を頼むなどの方法と費用は、空き家の管理費用の比較で確認できます。
元気なうちの備えは、親が判断できる間にしかできない
任意後見契約や家族信託のように、判断能力があるうちにしかできない備えもあります。親がまだ元気な場合は、親が元気なうちにやっておく家じまいの準備も参考にしてください。
7よくある質問
Q1成年後見の申立てから、実家を売るまで、どのくらいかかりますか?
申立てから審判まで、おおむね1〜2か月程度で、鑑定を行う場合は、さらに期間が必要です[4]。後見人が選ばれたあと、売却の準備をして、居住用不動産の処分の許可を申し立てる期間が別にかかります。全体の期間は状況によって違うため、余裕をもって計画しましょう。
Q2費用はどのくらいかかりますか?
Q3子どもの自分が、後見人になれますか?
Q4実家を売ったら、後見をやめられますか?
やめられません。後見は、本人の能力が回復するか、本人が亡くなるまで続き、家族の意思や本人の希望でやめることはできないとされています[4]。
Q5家庭裁判所の許可なしに売ったら、どうなりますか?
許可を得ないで処分をした場合、その処分は無効になります[3]。後見人が選ばれているときは、必ず許可を得てから売りましょう。
Q6相続した空き家を買取してもらう手続きは?
一般的には、相続登記で名義を相続人に変えたうえで、買取業者に査定を依頼し、条件に納得できれば契約して引き渡します。相続登記は2024年4月1日から義務になっています[5]。親が亡くなったあとに売る場合は、この流れになります。
8あわせて読みたい関連記事
9まとめ:後見を使う前に、売る必要性と、後見が続くことを確かめる
親が認知症で判断能力が不十分な場合、家族が代わりに実家を売ることはできません。成年後見制度を使うときは、家庭裁判所への申立て、後見人の選任、売却の準備、居住用不動産の処分の許可、売却・引き渡しの順に進みます。申立てから審判までは、おおむね1〜2か月程度ですが、後見人は家庭裁判所が選び、始まった後見は売却後もやめられません。
申立ての前に、売る必要性を整理し、後見が続くことと費用を理解したうえで、相続後に売る方法なども比べて決めましょう。どこから手をつければよいか迷ったら、家じまいの無料相談(別ウィンドウで開きます)で、全体の進め方から確認してみてください。








