1長屋の解体、まず決めたいこと
相続した実家が、隣の家と壁でつながった長屋だったとき、「自分の家だけ解体できるのか」と迷う方は少なくありません。自分の家だけを壊して残す側の家と切り離すことを、一般に「切り離し解体」と呼びます。国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査では、空き家のうち長屋建は2.8%でした[1]。数は多くありませんが、当てはまる場合は、一戸建てと同じ進め方ではうまくいきません。
長屋の解体で大切なのは、費用より先に、隣の家とどうつながっているかと、隣の家の同意を確かめることです。基礎・屋根・外壁・柱・梁が一棟でつながっている長屋は、他の所有者の承諾なしに、一部だけを解体したり切り離したりはできないと、大阪府が注意を呼びかけています[2]。この記事では、長屋の解体を「全体を壊す」「切り離して自分の家だけ壊す」「解体せずに売る」の3つで整理し、切り離し解体の前に隣の家と決めておくこと、費用・補助金・手続きの考え方を、公的な資料をもとに解説します。
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2長屋の解体は、まず「隣の家とどうつながっているか」を確かめる
長屋とは、壁を共通にして建て連ねた住宅
国土交通省の実態調査では、長屋建を、二つ以上の住宅を一棟に建て連ねたもので、各住宅が壁を共通にし、それぞれ別々に外部への出入口をもっているものと説明しています[1]。一般には、二戸一や三戸一、連棟(れんとう)と呼ばれる住宅も、同じように壁でつながった家です。
権利と建物のつながり方は、長屋によって違う
同じ長屋でも、権利の持ち方は一つではありません。建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)は、一棟の建物に構造上区分された独立した部分があるときは、各部分をそれぞれ所有権の目的にできると定めています[3]。大阪府の資料は、区分所有の建物である長屋では、基礎・屋根・外壁・柱・梁などが共用部分になり、各所有者がみんなで維持保全に努める必要があると説明しています[2]。
一方、見た目は長屋でも、隣の住戸との界壁が二重になっているなど、それぞれの住戸が別々の建築物である場合があります。空家法のガイドラインは、この場合は別個の建築物にあたるとしています[4]。つまり、「長屋だから共有」と決めつけず、登記の内容と、壁や屋根が実際にどうつながっているかを確かめることが出発点です。登記は法務局で、構造は建築士や解体業者の現地確認で確かめられます。
一部だけの解体は、建物のバランスを崩すおそれがある
大阪府の資料は、基礎・屋根・外壁・柱・梁などが一棟でつながっている長屋について、一部だけの解体や切り離しは建物のバランスを崩し、倒壊や雨漏りの原因になる可能性があるとしています[2]。切り離し解体は、残る隣の家の安全に直接かかわる工事です。自分の家のことだからと進めず、隣の家の所有者の了解を先に得ることが前提になります。

3長屋の解体:全体を壊す・切り離して壊す・解体せずに売るの比較
| 選択肢 | 向いている状況 | 必要なこと | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 長屋全体をまとめて解体する | 隣の家の所有者も手放す意思がある。長屋全体が傷んでいる | 全員の同意、費用の分担の取り決め。区分所有の場合は、共用部分の変更の手続きも確かめる | 全員の足並みがそろわないと進まない。費用の分け方で揉めやすい |
| 切り離して自分の家だけ解体する | 隣の家は住み続けたい。自分の家は使う予定がない | 隣の家の所有者の承諾、残る家の壁・屋根の補修の範囲と費用の取り決め、建築士など専門家の確認 | 隣の家の安全にかかわる。切り離したあとの雨漏りなどで、あとからトラブルになることがある |
| 解体せず、建物ごと売る | 解体費用や隣の家との交渉を避けたい | 長屋の扱いに慣れた買取業者などへの相談。長屋であることを最初に伝える | 買い手は限られやすい。価格や条件は物件ごとに大きく違う |
選択肢の整理(向いている状況・必要なこと)は編集部によるものです。公的資料が根拠になっているのは、一棟でつながった長屋の一部だけの解体や切り離しには他の所有者等の承諾が必要なこと、切り離しに伴う隣接外壁の補修費を補助対象経費に含める自治体があることです。個別の判断は、物件のある市区町村の窓口や建築士、弁護士などの専門家に確認してください。
出典:大阪府「長屋の維持保全について」、神戸市の取り扱い資料、国土交通省の資料を基に編集部作成
4切り離し解体の前に、隣の家と決めておくこと
承諾は口約束にせず、書面に残す
隣の家の所有者の承諾は、口約束で済ませず、書面に残しておきましょう。神戸市の補助制度の取り扱いでも、長屋の住戸ごとの解体除却を補助するときは、トラブルがあった場合は申請者が対処する旨の誓約書の提出を求めています[5]。この誓約書は隣の家の承諾書とは別のものですが、工事に伴う問題が起きた場合の対応も、事前に整理しておくことが大切です。
相続した家の場合は、相続人の間の合意も必要です。まず相続人と権利関係を確認し、解体について合意を整えます。相続登記や解体後の登記をどう進めるかは、土地・建物それぞれの登記の状況によって違うため、法務局や専門家に確認してください。兄弟姉妹で意見が分かれるときは、兄弟で実家の解体について揉めたときはが参考になります。
切り離したあとの壁・屋根の補修を、誰がどこまで行うか決める
切り離しによって、これまで外気にさらされていなかった隣の家の壁面などが露出し、防水・外壁・屋根の補修が必要になる場合があります。壁や屋根を補修する範囲と、その費用を誰が負担するかは、工事の前に取り決めておく必要があります。神戸市の補助制度では、長屋の一部を解体除却するときに必要になる隣接外壁の補修費を、補助の対象経費に含めています[5]。解体費用とは別に、補修の費用がかかる前提で、見積もりを取りましょう。
工事中と工事後の責任の範囲も確かめる
大阪府の資料は、長屋の屋根や外壁などが落下して第三者に損害が生じた場合、各所有者・占有者が連帯して賠償責任を負う可能性があると説明しています[2]。切り離しでは、工事のあとに雨漏りなどが出たときの責任の分け方も、あらかじめ話し合っておくと安心です。切り離しの実績がある解体業者や、建築士に、工事の方法と補修の内容を説明してもらいましょう。業者の選び方は、解体業者の選び方と見積もりの注意点で解説しています。
5費用・補助金・手続きの考え方
費用は、解体費のほかに補修費を見込む
解体費用の相場は、解体費用の坪単価の相場で解説しています。長屋の切り離し解体では、これに加えて、隣の家の側の壁や屋根の補修費がかかります。前の道が狭い場所や、隣との間隔がほとんどない場所では、重機が入れず手作業が増えて費用が上がることもあるため、複数の業者から、補修まで含めた見積もりを取りましょう。
補助金は、自治体によって長屋の扱いが違う
解体費用の補助は、自治体によって制度が違い、長屋の扱いも一様ではありません。たとえば神戸市の密集市街地建物除却事業では、長屋は住戸ごとの解体除却も補助対象で、隣接外壁の補修費も対象経費に含まれます。一方、家財の処分、植木の撤去、庭石等の処分、地中埋設物の撤去などは対象外です[5]。
これに対して横浜市の住宅除却補助制度は、長屋・共同住宅を、倒壊等の危険がある空家として市が認定した場合を除き、補助の対象外としています[6]。補助の有無や条件は、年度や地域で変わります。解体を依頼する前に、物件のある市区町村の窓口に、長屋が対象になるかを確認しましょう。申請や交付決定と、工事の契約・着工の順序は、制度ごとに決まっているため、あわせて確認しましょう。制度の全体像は、空き家の解体補助金の制度で整理しています。
解体前の届出と、解体後の登記を確認する
建築物を除却する工事を施工する者は、除却する部分の床面積の合計が10平方メートルを超える場合、工事に着手する前に、都道府県知事への届出が必要です[7]。これは通常、解体業者が手続きしますが、依頼するときに確認しておきましょう。切り離しや、残る建物の補修について、建築確認などの手続きが必要かどうかも、工事の前に自治体の建築担当窓口や建築士に確認してください。
建物を壊したあとは、登記も整理します。建物が滅失したときは、その日から1か月以内に、建物の滅失の登記を申請する義務があります[8]。建物の種類・構造・床面積など、法律で定める表題部の登記事項に変更が生じたときも、原則として変更の日から1か月以内に変更の登記が必要です[8]。連棟の一部を切り離した場合に、どの登記が必要になるかは、登記の状況によって違うため、土地家屋調査士や法務局に確かめてください。
6交渉が難しいときの選択肢:切り離さずに売る・隣の家に打診する
切り離さずに売るという選択肢もある
隣の家との交渉や補修が負担なら、長屋のまま建物ごと売る方法があります。買い手は限られやすいものの、長屋を扱い慣れた買取業者が見つかることがあります。残置物や傷みがあっても、現状のまま相談できるかは、空き家をそのまま買取してもらう現状渡しの注意点で整理しています。業者を選ぶときの確認点は、空き家買取業者の選び方と注意点をご覧ください。
隣の家の所有者に買ってもらう打診もできる
隣の家の所有者が土地を買い足すと、切り離しをせずに済み、敷地も広く使えるため、双方にとって都合がよい場合があります。まず、隣の家の所有者の意向を聞いてみましょう。買い手が隣の家の所有者の場合も、価格や条件は書面にして残します。
近隣への配慮は、解体の前から始める
長屋の工事は、音・振動・粉じんが隣の家に直接伝わります。工事の日程や内容は、着工前に隣の家と、周りの家にも伝えておきましょう。近隣への挨拶の進め方は、解体前の近隣挨拶で、解体にまつわる近所のトラブルは、空き家をめぐる近隣トラブルで解説しています。
7よくある質問
Q1長屋は、自分の家だけ解体できますか?
一棟でつながった長屋の一部だけの解体や切り離しは、他の所有者等の承諾なしにはできないとされています[2]。隣の家の所有者の承諾と、残る家の壁や屋根の補修について取り決めたうえで、専門家に確認しながら進めましょう。
Q2隣の家の同意が得られないときは、どうすればいいですか?
切り離し解体は、同意なしには進められません。建物ごと売る方法や、隣の家の所有者に買ってもらう打診などを検討します。話し合いが進まないときは、弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
Q3切り離したあとの壁や屋根の補修費は、誰が負担しますか?
決まった負担者は、一律にはありません。工事の前に、補修の範囲と費用の負担を隣の家と取り決めて、書面に残すのが基本です。自治体の補助制度の中には、長屋の一部を解体除却する際に必要な隣接外壁の補修費を、補助の対象経費に含めるものがあります[5]。
Q4長屋の解体に補助金は使えますか?
Q5長屋の一部を解体したあとの登記は、どうなりますか?
建物が滅失したときは、1か月以内に滅失の登記を申請する必要があります[8]。連棟の一部を切り離した場合の登記は、登記の状況によって手続きが違うため、土地家屋調査士や法務局に確かめましょう。
Q6相続した空き家を買取してもらう手続きは?
一般的には、相続登記で名義を相続人に変えたうえで、買取業者に査定を依頼し、条件に納得できれば契約して引き渡します。相続登記は2024年4月1日から義務になっています[9]。長屋の場合は、査定の時点で、長屋であることと、隣の家との関係を伝えておきましょう。
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9まとめ:長屋の解体は、隣の家の承諾と補修の取り決めから
長屋の解体は、まず、登記の内容と、隣の家とのつながり方を確かめることから始まります。基礎・屋根・外壁・柱・梁が一棟でつながっている長屋は、他の所有者の承諾なしに、一部だけを切り離して解体できません。切り離し解体を選ぶなら、隣の家の承諾を書面に残し、壁や屋根の補修の範囲と費用の負担を、工事の前に取り決めましょう。
費用は解体費のほかに補修費を見込み、補助金は自治体で長屋の扱いが違うため、着工前に確認します。交渉が難しいときは、長屋のまま売る方法や、隣の家の所有者への打診も選べます。どこから手をつければよいか迷ったら、家じまいの無料相談(別ウィンドウで開きます)で、全体の進め方から確認してみてください。








