1空き家の行政代執行の費用は、自治体ではなく所有者が負担する
空き家が行政代執行で取り壊された場合、その費用を負担するのは自治体ではなく、空き家の所有者などの「義務者」です。行政代執行法は、行政が義務者に代わって行った作業の費用を、義務者から徴収できると定めています[1]。請求額は建物の規模や必要な作業で異なり、一律ではありません。請求されるのは、実際に代執行にかかった費用です[2]。費用は代執行が終わった後に請求され、支払わなければ税金の滞納と同じ方法で財産を差し押さえられることもあります[1][2]。
国土交通省・総務省の調査では、2015年度から2024年度までに、空家法にもとづく通常の行政代執行が全国で286件行われています。これとは別に、略式代執行や緊急代執行も実施されています[3]。この記事では、代執行の後に届く請求と回収の流れ、相続人への影響、所有者が分からない場合などの特別な代執行、そして代執行に至る前にできることを整理します。
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2空き家の行政代執行とは
命令に従わないとき、市町村が所有者に代わって除却などを行う
空家等対策特別措置法(空家法)では、倒壊のおそれがあるなど周囲に悪影響を及ぼす「特定空家等」の所有者に対し、市町村長が助言・指導、勧告、命令の順に措置をとります[2]。命令を受けても措置を行わない、行っても不十分、期限までに終わる見込みがないといった場合に、市町村長が行政代執行法にもとづいて、自ら、または業者などの第三者に作業をさせることができます[4]。これが空き家の行政代執行です。
指定から命令までの流れや、勧告で固定資産税の住宅用地特例が外れる仕組みは、特定空家に指定されたらどうなるかで解説しています。
代執行の前に「戒告」と「代執行令書」が届く
通常の代執行では、原則として、期限までに必要な措置を行わなければ代執行することを、あらかじめ文書で知らせる「戒告」が行われます。それでも対応しないと、代執行の時期、現場の執行責任者の氏名、費用の概算の見積額を記した「代執行令書」で通知されます[1]。所有者が分からない場合の略式代執行や、緊急時の代執行では手続きが異なります。
戒告や令書が届いたら、まだ自分で対応できる余地がないか、放置せず自治体の担当窓口に相談しましょう。
所有者が分からないときや緊急時の代執行もある
所有者などを過失なく知ることができないときの「略式代執行」や、災害などの非常時に命令を出すいとまがないときの「緊急代執行」もあります[4]。略式代執行は以前からある制度で、緊急代執行は2023年12月13日施行の空家法改正で新しく設けられました。この改正で、略式・緊急代執行の費用も、裁判の判決を経ずに徴収できるようになりました[5]。
国土交通省・総務省の調査では、2015年度から2024年度までの累計で、略式代執行は592件、緊急代執行は12件行われています。2024年度だけで、通常の行政代執行は71件、略式代執行は81件、緊急代執行は9件でした[3]。
通常・略式・緊急代執行の手続きと費用負担の違いを、以下の表にまとめます。
3通常・略式・緊急代執行の違い
| 項目 | 通常の代執行 | 略式代執行 | 緊急代執行 |
|---|---|---|---|
| 行われる場合 | 命令を受けた所有者などが、措置を行わない・不十分・期限までに終わる見込みがないとき | 市町村が過失なく、命令の相手となる所有者などを知ることができないとき | 災害などの非常時に、特定空家等が保安上著しく危険な状態で、命令を出すいとまがないとき |
| 事前の手続き | 助言・指導、勧告、命令を経て、原則として戒告と代執行令書で通知 | 措置を行うことと費用を徴収することを、あらかじめ公告 | 命令は経ない(助言・指導と勧告は経ている必要がある) |
| 費用を負担する人 | 所有者などの義務者 | 所有者など(後から判明したときなどに徴収) | 所有者などの義務者 |
| 費用の回収 | 納付命令で請求し、国税滞納処分の例により強制徴収できる | 通常の代執行と同じ(2023年12月13日以後に公告した場合) | 通常の代執行と同じ(2023年12月13日以後に勧告した場合) |
※ 個別の手続きや費用の扱いは、市町村によって異なる場合があります。通知が届いたら、担当窓口に確認してください。
出典:国土交通省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」をもとに編集部作成
4代執行の費用は誰が払う?請求の仕組み
費用を負担するのは所有者などの義務者
行政代執行法は、行政が義務者に代わって行った作業の費用を、義務者から徴収できると定めています[1]。国土交通省の指針(自治体向けの運用の手引き)も、空き家の管理の責任は本来所有者等にあり、所有者等が費用を負担しないのは公平性の点で問題があるとして、代執行の費用は所有者等に請求すべきものとしています[2]。
請求されるのは「実際にかかった費用」
同じ指針によると、請求されるのは手数料ではなく、実際に代執行にかかった費用です。作業員の賃金、請け負った業者への報酬、資材費などが含まれる一方、義務違反を確かめるための調査費などは含まれないとされています。また、費用は代執行が終わった後に徴収するもので、見積もりによる暫定額を前もって徴収することは認められていません[2]。
金額は建物の大きさや構造、残された家財の量などで変わり、一律の相場は示されていません。自分で業者を選んで見積もりを比べられる通常の解体と違い、代執行では業者や工事の内容を所有者が選ぶ仕組みにはなっていません。
納付命令書で金額と納期日が示される
代執行が終わると、実際にかかった費用の額と納期日を定めた文書で、支払いが命じられます[1]。これが「納付命令」です。

5代執行の費用を払わないとどうなる?
税金の滞納と同じ方法で強制的に徴収される
代執行の費用は、「国税滞納処分の例により」徴収できると定められています[1]。これは税金を滞納したときと同じ手順のことで、国土交通省の指針では、納税の告知、督促、財産の差押え、公売などによる換価(お金に換えること)、換価代金の配当という流れが示されています[2]。裁判を経なくても、預貯金や不動産などが差し押さえられる可能性があるということです。
代執行の費用は税金の次に優先して回収される
代執行の費用について、行政庁は「国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権」を持つとされています[1]。先取特権とは、ほかの債権者より先に支払いを受けられる権利のことです。ただし、抵当権など登記された権利との関係もあるため[6]、すべての借金より先に回収されるという意味ではありません。
支払いが難しいときは、放置せず早めに相談する
納付命令を受けても支払いが難しい場合は、そのままにせず、納期日の前に自治体の担当窓口に相談することが大切です。納付の方法についての扱いは自治体や個別の事情によって異なるため、対応は自治体や弁護士に確認しましょう。
6相続した空き家と代執行の費用
相続人が新しい所有者として措置の対象になる
相続で空き家の所有者が変わると、市町村は新しい所有者に対し、改めて助言・指導から順に手続きを行う必要があるとされています。ただし、相続の時点ですでに勧告や命令が出ていたことを知っていた場合などは、前の所有者のときより短い猶予期限が付けられることも考えられると、国土交通省の指針は示しています[2]。相続したら、親の家が自治体から指導などを受けていなかったか、早めに確認しましょう。
親の代の未払いの費用も相続の対象になり得る
民法では、相続人は亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐとされています(亡くなった人だけに属するものを除く)[6]。親の代に代執行が行われ、費用が未払いのままであれば、その支払い義務も相続の対象になり得ます。自治体からの通知や納付命令書が残っていないか、親の書類を確認しておくと安心です。
相続放棄をした場合
相続放棄をすると、その相続については初めから相続人ではなかったものとみなされます[6]。相続人全員が放棄して引き継ぐ人がいなくなった場合、市町村は略式代執行や、家庭裁判所への相続財産清算人の選任請求などで対応することが考えられるとされています[2]。ただし、放棄の時点で空き家を現に占有していた人には、引き渡すまで保存する義務が残ります[6]。
放棄できるかの判断は空き家の相続放棄、放棄後の管理は相続放棄した後の空き家で解説しています。相続放棄は預貯金なども含めてすべて手放す手続きのため、弁護士や司法書士に相談したうえで判断しましょう。
7行政代執行に至る前にできること
指導・勧告の段階で自治体に相談する
通常の代執行は、助言・指導、勧告、命令と段階を踏んだ先にある最終的な手段です[2]。自治体から通知が届いたら放置せず、担当窓口に連絡して、何を直せばよいかを確認しましょう。空き家が周囲にどの程度迷惑をかけていそうかは、空き家の迷惑度診断(別ウィンドウで開きます)で目安を確かめられます。
自分で解体すれば、業者と費用を比べて選べる
自分で解体を依頼すれば、複数の業者から見積もりを取り、内容と費用を比べて選べます。費用の内訳は空き家の解体費用、補助金は解体補助金のもらえる条件で解説しています。補助の条件は自治体ごとに異なり、たとえば千葉県銚子市の危険空家等の除却補助では、特定空家等の場合、空家法にもとづく勧告の対象になっていないことが条件の一つです[7]。勧告を受ける前に動いたほうが、使える支援の幅が広がる場合があります。
解体せずに売却・買取で手放す
建物が古く家財が残っていても、現状のまま買い取る業者があります。手放せば、管理の負担そのものがなくなります。提示価格や契約条件は業者によって異なり、指導や勧告を受けている場合は、その状況を買主に伝えておくことが大切です。注意点は空き家をそのまま買取に出す場合で解説しています。どの方法がよいか迷う場合は、家じまいの相談窓口(別ウィンドウで開きます)でも相談できます。
8よくある質問
Q1行政代執行の費用はいくらくらいかかりますか?
Q2代執行で解体された後、土地は誰のものになりますか?
Q3代執行の費用は分割で払えますか?
費用は、納付命令で示された金額と納期日にしたがって納めることになっています[1]。分割などに応じるかどうかは自治体や事情によって異なるため、支払いが難しい場合は納期日の前に自治体の担当窓口に相談しましょう。
Q4相続放棄をすれば、親の代執行費用を払わなくてよいですか?
相続放棄をすると、その相続については初めから相続人ではなかったものとみなされるため[6]、相続人として親の支払い義務を引き継ぐことはなくなると考えられます。ただし、放棄はすべての財産が対象で、手続きには期限もあるため、弁護士や司法書士に相談して判断しましょう。
Q5特定空家に指定されていても、売却や買取はできますか?
売却や買取に出すこと自体はできます。勧告の後に建物と土地の両方の所有者が変わると、その勧告の効力は失われ、市町村は新しい所有者に改めて助言・指導から手続きを行うとされています[2]。買主には指導や勧告の状況を伝え、条件を確認したうえで契約しましょう。
Q6相続した空き家を買取してもらう手続きは?
まず相続登記を済ませます。相続登記の申請は2024年4月1日から義務化されています[8]。そのうえで買取業者に査定を依頼し、建物の状態や残置物、自治体からの指導の有無を伝えて条件を確認します。価格や契約条件に納得できれば売買契約を結び、引き渡しへと進みます。売却にかかる税金の扱いは個別の事情で変わるため、税理士に確認することをお勧めします。
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10まとめ:代執行の費用は所有者の負担。命令の前に動くことが大切
空き家の行政代執行の費用は、所有者などの義務者が負担します。代執行が終わると納付命令で実際にかかった費用が請求され、払わなければ税金の滞納と同じ方法で強制的に徴収されることがあります。
通常の代執行は、助言・指導、勧告、命令を経て行われる最終的な手段です(所有者不明の場合や緊急時には別の手続きがあります)。自治体から通知が届いたら放置せず、解体・売却・買取のどれで手放すかを早めに比べ、迷う場合は相談窓口も活用しながら進めましょう。









